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【考察・レビュー】市町村・財産区有林の現状と展望

このブログは

・志賀和人(2021).シリーズ 地域公有林の系譜と未来⑴市町村・財産区有林の現状と展望ー公有林管理の国際標準化を見据えてー 山林 第1643号 4月号 大日本山林会,p33-41

の考察・レビューをテーマにしたものです。

出版元URL:http://www.sanrinkai.or.jp/bulletin/

・内容の不備、ご指摘ありましたらコメント欄よりお願いします。

 

1.私見考察、レビュー

※論旨

【問題提起】:3割近くが1000ha以上の森林を抱える日本の市町村有林等の森林経営はどう発展していくべきか?

【主張】→スイスの市町村における公有林(≒日本の共有林や財産区有林に類似する森林)の森林経営をモデルにしてはどうか‥!?

 

❶森林経営とはそもそも‥

  日本における森林経営というと素材生産事業や植林事業を行う各種事業体を中心に語られる傾向がある。それらは森林経営が占める施業の一つをそれぞれ専門化したサービスであり、元来森林経営というのは文字通り『森林』を経営することで植栽〜主伐という一連の施業全体をマネジメントすること、さらに輪伐期を設定し循環的育成林業を志向することや、標準伐採量に依拠した連年経営を志向するなどの大局的視点からマネジメントすることであると思われる。

❷日本における森林経営のノウハウ

 私自身は不勉強で語る口を持たないが、日本における森林経営のノウハウは伝統的な林業地の施業体系としていくつか知られているものがそれにあたると考える。例えば速水林業や今須林業、北山林業など。伝統的林業のおかげで、植栽本数や間伐本数(収量比数や相対幹距比から判断される密度管理図等林学の知見に応用される)といったノウハウが蓄積されたのだと思う。

❸大規模森林経営のノウハウは蓄積されていたのか?

 本編の内容に絡むが、実際のところ1000haを超えるような森林経営についてノウハウはどの程度蓄積されているのだろうか?国有林では1000haを超える管轄を持ち、長年の森林経営が行われてきた経緯があるが、その『大規模』の森林所有としてのノウハウについてはあまり耳にしない。(例えば輪伐期をどのように設定し、森林全体のゾーニングについてどのような経営判断のもと行なっているかなど)。そのほかにノウハウの蓄積があるのは財閥系の企業が所有する社有林経営においてノウハウがある可能性がある。

❹森林経営ノウハウはどのように蓄積されるのか?

 森林経営を行う経営者はコンサルタントやマネージャー業の様な管理職であると思う。なぜなら、作業班単位で森林の伐採量を見るとせいぜい一つの作業班で年間3000〜5000㎥ぐらいが目安だと考えられ(皆伐と間伐を併用するとする)、1000haを超えるような森林の経営では複数の作業班に指示を出し、なおかつ造林・育林の作業、さらに生産物の販売に関しても指示を出さなければならず、経営者本人が現場労働に従事する時間的余裕は多くはないと予想されるためである。

❺さらにそもそも森林経営のノウハウの蓄積と同時に根本的な森林経営方針について固めなくてはならないのではないか?

 ノウハウはあるシステムの中を運用する中で培われる実務面での経験則だと思われる。つまりシステムの基盤の上に積み上げられるもので、システム次第で積み上げられるものは変わってしまう。他のシステムに応用が効くものがあるであろうが、最もフィットするものはやはり他のシステムではなく、そのノウハウがもとにするシステムの上で使用された場合であろう。そのため、システムをいかにするか、つまり森林経営においてはどのような育林体系、施業体系、目標林系を設定するかがそのシステムに該当する。それは組織的な性質及びその森林が分類される土地条件、気候条件、経済状況に適合するものが選択されるべきであり、今回取り上げた文章においてはスイスの森林経営のシステム及びそのシステムが選択された各種条件を考慮し、日本の森林経営に応用し、それをさらに個々の事情に合わせて発展させることが必要であると思われる。

 

2.基礎用語

 「公有林」:都道府県有林、市町村有林、財産区有林、森林整備法人の所有する森林。

 「財産区有林」:1950年代の市町村合併法以降で新たな市町村が生まれた際、合併前の旧市町村が所有していた所有林を新市町村に提供せず、旧市町村の範囲内だけでの所有に留めたもの

 「ゲマインデ有林」:定義は調べきれなかったが、共有林や財産区有林に近い複数の所有者で共同利用がされている森林

 「スウェーデン『ソドラ』」;大規模森林所有者協同組合から拡大した総合林業・林産企業(組合員所有森林面積237万ha,組合員数5.1万人)

 「フィンランド『メッツア・グループ』」:協同組合法を根拠法とする森林所有者共同組織組合メッツア・フォレストを中心に多国籍の紙パルプ企業や製材企業を抱える世界的な大規模林産企業体(森林面積計530万ha、総森林所有者数12.3万世帯)

 『育成林業を行う先進国グループの分類(論文より)」

❶『収穫の保続段階』の育成林業ードイツ語圏

ドイツ林学の伝統に基づく、標準伐採量が所有の経営単位に確立

❷『生産の保続段階』の育成林業ー北欧諸国

循環的育成林業が地域単位に確立し、安定的素材生産と更新が継続

❸『天然林・財形林段階』の育成林業ー北米・東南アジア・日本

林業不利地域や育成林業後発地、または財形林が支配的

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3.内容要約:①データ

 ⑴日本の市町村の林務の現状

・2018年:「森林経営管理法」の制定、森林経営管理制度の発足⇨管理の行き届かない森林に適切な森林管理を促すことを目的とする 

・2019年:森林環境譲与税の導入開始。市町村権限の強化、『新たな森林管理システムの整備』に着手

・地域森林管理における市町村林務の役割

 ❶国の林務行政の下請

 ❷市町村・財産区・一部事務組合有林の所有と管理

 ❸地域住民の生活環境に則した森林管理への貢献

・市町村の森林所有規模は全国1718市町村のうち518市町村が1000ha以上の森林を所有している(下図詳細)

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2015年農林業センサス農山村地域調査:現況森林面積

・上図の所有規模はドイツやスイスの市有林・財産区有林の規模と大差はない

・森林管理の実態:日本の市町村を対象にとったアンケートで10ha以上の主伐をした市町村は29団体(回答791市町村中)と少数で、多くは間伐予算の範囲での数10haの間伐実施にとどまる。

・森林管理の実態は『森林の循環経営の構築』からはほど多い『間伐予算の執行』に当てはまる

 

⑵国際比較

・haあたりの素材生産量(所有を限定しない国際比較と思われる)(下図)

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世界森林資源調査(2010)、(成長量に関してはブログ作成者のうろ覚え)

・上図より日本は成長量や蓄積あたりに占める伐採量が少ない傾向

・成長量を考えず現在の蓄積から伐採量を累積して減算しても約265年分の伐採が可能

 

4.内容要約:②主張


【問題提起】:3割近くが1000ha以上の森林を抱える日本の市町村有林等の森林経営はどう発展していくべきか?

【主張】→スイスの市町村における公有林(≒日本の共有林や財産区有林に類似する森林)の森林経営をモデルにしてはどうか‥!?

 

⇨具体案①森林経営収支評価の変更

➡︎日本では長期間の投資と評価される育林費について、単年度の経営収支の費用として評価する(その年度の伐採収入で育林費を回収していれば黒字と評価)

➡︎上記の経営収支評価のため、標準伐採量を定め輪伐期を回す体制を確立

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⇨具体案②森林経営組織構造の変換

➡︎森林経営の実績の責任を有するものとして経営収支、労務計画、森林施業計画、育林計画等に責任を負う「経営責任者」と森林法に基づく伐採許可や国土保全に必要な保育の確保及び未立木地の再造林協議を行う「林務行政」とを別に配置する。